WordPressとノーコードはけんかしないよという話

最近、「脱WordPress」という言葉をさまざまな方面から聞くようになりました。1つは「ヘッドレスCMS・Jamstack」という、WordPressなどのCMSを利用しないで、MarkdownやJSONのデータ形式を利用してReactなどのJavaScriptライブラリーと組み合わせてウェブサイトを構築する手法。そしてもう1つが、WixWebflowなどの「ノーコードツール」を利用したウェブサイト制作です。

しかし、実はWordPressとノーコードはけんかする関係性ではありません。今回は、ノーコードツールでのウェブ制作と、WordPressの関係を紹介しましょう。

ノーコードツールでのウェブ制作

これまで、ウェブサイト制作といえば、サイト設計からデザインラフの制作、HTML/CSSのコーディングを経て、WordPressのテンプレート開発を行ってようやく完成していました。それまでに、それなりの期間や工数、費用が発生していました。

さらに、公開後もWordPressや各種プラグインの度重なるアップデートへの対応やバックアップ、ページの追加や作り替えなど、あらゆる場面で手間や費用が発生していました。

しかし、WixやWebFlowなどのノーコードツールを利用すれば、Microsoft Wordなどを操るようにウェブブラウザー上に原稿を流し込み、希望するレイアウトを「ブロック」などの形で作り上げて公開ボタンをクリックするだけ。月額の維持費は発生するものの、バージョンアップ作業に追われたり、データの紛失を恐れたりなどの心配もいりません。

さらにはページの追加や作り替えが必要になったら、いつでもログインして作り替えるだけ。非常に簡単にメンテナンスすることができます。

当初は、チラシ的なサイトや期間限定のキャンペーンサイトなどのいわゆる「ペライチサイト」に採用されてきたノーコードツールですが、「ノーコード」という言葉の流行と共に大規模サイトの構築などにも採用される例が増えてきました。

WordPressとGutenberg

そんな時代の流れにWordPressは置いていかれているのでしょうか? いやいや、むしろWordPress自身がそれまでのWordPressクリエイターを置いてけぼりにして、我が道を進み始めています。そのキーワードが「Gutenberg」。

Gutenbergは2017年頃からスタートしたプロジェクトで、WordPressの作りを大きく変更するというものでした。その代表的な例が「ブロックエディター」を採用したエディターエンジンの再編。それまで、「TinyMCE」というオープンソースエディターを搭載していたWordPressに、突如ブロックエディターが実装されたのです。

ブロックエディターとは、本文を「ブロック」と呼ばれる単位に分割して管理する手法で、ブロックを積み上げながら本文を作り上げていきます。そのブロックには、例えば「見出し」ブロックや「段落」ブロックはもちろんのこと、表や画像ギャラリーをワンタッチで挿入したり、カラムに分けたレイアウトを行うためのブロックがあるなど、多彩なレイアウトをブロックを使って実現できるような作りになっています。

ただしこのブロックエディターは、編集者には便利なものの、テーマを制作するクリエイターには大変な重荷になります。何せ、本文にさまざまなHTMLが流れ込んできてしまうため、これがさまざまなデバイス上で崩れないようにスタイルシートで調整しなければならないのです。

当初、WordPressを古くから利用しているユーザーには、このブロックエディターは大変不評で、実際プラグインの形で配布されているGutenbergの評価は1つ星が2,000以上の平均2.2と燦々たるものです。

しかし、WordPressの開発チームはひるむことなく2018年にリリースされた5.0でブロックエディターを正式採用し、現在も開発が続けられています。

実は、このブロックエディターの採用こそ、WordPressが「ノーコード」の流れに戦いを挑んだ証ではないかと筆者は考えています。

ブロックエディターに対応した高機能テーマの登場

ブロックエディターが採用されたWordPressは、クリエイターにとって大変不評でした。多くのクリエイターは「Classic Editor」という旧バージョンのエディターに戻すためのプラグインを導入したり、ブロックエディターを無視してHTMLだけで実装するなど、Gutenbergの流れに逆行していました。

しかし、ここに登場するのがブロックエディターに対応した高機能テーマです。海外では「Elementor Website Builder」などがすでに有名でしたが、海外のテーマの場合、日本語にうまく当てはまらず、文字が大きすぎたりスタイルが崩れたりすることが良くあります。

そこで、日本人デザイナーがデザインした「Snow Monkey」や「SWELL」と言ったテーマが日本語サイトも美しく制作でき、日本人クリエイターにじょじょに受け入れられてきました。

特に筆者が企業サイトの構築などで愛用しているSnow Monkeyには、「Snow Monkey Blocks」や「Snow Monkey Forms」といった兄弟プラグインが存在していて、Snow Monkeyと合わせて使うことで非常にクオリティの高いサイトを、ノーコードで実現することができます。弊社の、H2O spaceともすたの企業サイトも、Snow Monkeyだけで実装しています。

また、SWELLはメディアサイトやブログサイトの構築に必要なSEOまわりの設定などがかなり充実していて、この「ちゃんとブログ。」はSWELLで実装しています。ちょうど良い住み分けのされている非常に優秀な日本語テーマです。

WordPressが描くFull Site Editingという未来

そしてWordPressは、2021年12月現在開発中のWordPress 5.9という最新バージョンと、それに付属する予定の「Twenty Twenty-Two」という公式テーマで「Full Site Editing」という思想を実現しようとしています。

これはつまり「ウェブサイトのカスタマイズを、すべて管理画面上から行える」ということを目指していて、実際「Twenty Twenty-Two」では、ヘッダーのカスタマイズから固定ページ内にお知らせの一覧を表示したり、動的な内容を表示するといったものも、すべてブロックエディターで実現できるように作り込まれています。

まさにノーコードなサイト制作をWordPressで実現しようとしているのです。

Twenty Twenty-Twoのテーマファイルは、旧来のWordPressテーマクリエイターが見ると、絶句する作りになっています。それまで見慣れていた、PHPファイルがまったく存在しておらず、そこには若干のHTMLファイルがあるだけのテーマです。テーマ制作の常識が根本から覆されるような事が起ころうとしています。

時代の変化に逆らわず、スピードアップして追いつくWordPress

別の記事でも紹介しましたが、WordPressは「ヘッドレスCMS」や「Jamstack」についても決して否定せず、それに対応したプラグインやサービスなどが登場しています。

この懐の深さが、WordPressのなによりの魅力です。これまでもTumblrなどのマイクロブログという流れが来たら「投稿フォーマット」という機能を搭載して対応したり、ShopifyなどのECサイトCMSが登場すると、WooCommerceというEC構築のための大型プラグインが登場するなど、時代の流れに合わせてWordPressの姿を変化させてきました。

そして、ウェブサイト制作シーンに大きな変化が訪れようとしている今また、WordPressはGutenbergによって大きく生まれ変わろうとしています。

WordPressを否定するのではなく、またWordPressの動きを否定して旧来のWordPressにしがみつくのでもなく、時代の変化を楽しみながらWordPressの進化を眺めていけたらと思っています。

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